第56回全日本学生カヌースプリント選手権大会の決勝に二人の名前はあった。勝俣優那と眞田友紀乃、山梨学院大学カヌー同好会。2019年5月に新設された部でもない同好会。
新設されたタイミングで監督の中垣氏にお話は伺っていたので、どんな取り組みをしているのか知ってはいたが、あらためて今回選手の二人にインタビューすることができた。彼女たちが行っていたのは、自分にとって最適なトレーニングを探求し、実践すること。その繰り返しだった。
なぜカヌー部の無い山梨学院大学を選んだ?
勝俣・眞田)私たちは地元山梨の高校でカヌーを続けてきました。その練習に中垣先生(山梨学院大学同好会監督)のスポーツ生理学の考え方が反映されているということをカヌー部顧問の先生から聞いていました。地元でカヌーを続けたいという思いも強かったので、顧問の先生に中垣さんを紹介していただいて山梨学院大学へ進学することを決めました。
普段はどんなトレーニングをしている?
勝俣・眞田)月に一度それぞれが中垣先生からトレーニングメニューを渡されます。そこで自分の課題とトレーニングの目的を共有します。練習自体は選手のみで行います。練習後、LINEで練習内容や気づいた点などを報告しています。時には面談というかたちでじっくり話し合うこともありますが、基本はこの流れです。水上練習は精進湖で、ウエイトは場所を転々としながらやってます。
私たちは身体の特性とかも違うので、メニューも異なりますが、今の流れが凄くやりやすいと感じているので、私たちには合ってるように思います。
二人ともこの一年間で自己ベストを大きく更新してますが、何を意識してきた?
勝俣・眞田)これは間違いなく体幹です。私たちずっと昨年冬から水上では「幅寄せ」ばかりやってました(笑)サブメニューとかではなく2時間ずっとそれだけです。バランストレーニングです。キャッチの時にパドルに体重をあずけるということができなくて、その感覚や落ちる恐怖心を克服するために幅寄せを繰り返し行いました。幅寄せも3段階あり、徐々にキャッチの感覚に近づくように実践してきました。今の段階では目標に対して40%位の完成度です。さらに水上で自分の動きをコントロールできるようにバランストレーニングは継続していきます。
水上では幅寄せに本当に多くの時間を使っていたので、凄く不安はありました。きつい練習をしてるわけでもないので、これで本当に速くなれるのかと。でも、中垣先生と最初の一年は基礎的な技術を身につけていこうと決めていたので、やり通しました。
オーバートレーニング症候群との付き合い方
オーバートレーニング症候群
(厚生労働省サイトより)
スポーツなどによって生じた生理的な疲労が十分に回復しないまま積み重なって引き起こされる慢性疲労状態。
話を進めていくと眞田さんは高校の時にオーバートレーニング症候群であったことを打ち明けてくれた。
眞田)高校の時、部活で同じ練習をしているのに自分だけがタイムが伸びないということがずっと続きました。当初は自分の体力や技術が劣っていて、練習不足なんだと考えていました。さらに練習を継続しました。ある日、朝起きて身体が動かせない状態になっていました。
それまでに病院で診てもらったこともあります。基礎体力が不足しているという診断で、低強度のトレーニングを勧められ、実践もしました。それでも、頑張ろうと思えば思う程、状態は悪くなりました。
高校2年の時、自分がオーバートレーニング症候群の可能性があるという事を知りました。それが私のスポーツ生理学との出会いでした。そこから練習と休息のバランスをとることを意識しました。しかし高校を卒業するまでパフォーマンスを向上させることはできませんでした。
今は中垣先生のアドバイスを受け、睡眠時の心拍数を管理することでオーバートレーニングを防げています。自分の身体を知り、限界ラインがどこにあるのかを指標として知ることで、身体の状態を管理できるようになりました。
自分と向き合うということ
選手には「目標と課題」をほぼすべての機会で聞いてきた。今回も同様に。二人の目標を聞いた最後に勝俣さんは僕にこんなことを伝えてくれた。
勝俣)自分の場合は、目標を高く設定し過ぎると練習がうまくいかなくなったりして潰れてしまうので、目標はちゃんと努力すれば手の届くところに置いてます。その目標が達成した時に見える場所から、また次の目標を設定します。だから、今伝えた目標は手の届く目標です。
今回、勝俣さん、眞田さんとお話しして一番感じたのは、それぞれが「自分のやり方」を見つけようとしている姿勢だった。自分の弱さ・特徴を知り、それと向き合いながら自分なりのやり方で進む。以前、中垣監督は「仮説と検証を自分達で繰り返せる選手になってもらいたい」と語っていた。今の彼女たちは、まだまだ未熟なアスリートかもしれないが、少なくとも自分達の力で進もうとしていることは伝わってきた。
山梨学院大学同好会という少人数のメリットを活かした、個別最適化システム。スポーツ科学を学び、仮説をたて、自分の身体で実践し、検証する。まだ2年目の同好会。(もしかしたら部になるかもしれない)チームではあるが、それは自立した個があって成立するもの。
今回聞いた二人の目標は、とりあえず僕の中だけにしまって、二人の今後の取り組みを楽しみにしたいと思う。